
吾は猫なり。未だ名は無し。生まれて即ち母子の契りを裂かれ、ねうねう喚く内、ぶわうなる去勢済みの朋克の貧宅に宿せり。一宿一飯の恩誼に酬ふる任侠の風、方寸にあれど、赤児故に儘成らず。天命を削りて只啼き、只震ふのみ。乳呑むも覚束無し。歩くも脆弱たり。みちを曰く、「眼開かざれば、先永からず」と。吾の命運、明朝尽きたるや否や皆目判らじ。
熟々想ふに、吾の如き巷間に野垂るる者と、有り触れる轢死せし者の相違は如何と。ぶわう曰く、「士、眼前の瀕す猫に慈悲ある可し」と。古への童女曰く、「貴兄、汝が鼻の其、あないみじ」と。