2010年08月23日

『三国志』十一の巻・鬼宿の星 北方謙三4

 張飛は死なず。呉への報復戦を劉備自ら率いる蜀軍は、関羽を弔う白亜の喪章、張飛の牙旗を掲げ、破竹の勢いで秭帰を制した。勢いに乗る蜀軍に対し、孫権より軍権を委ねられた陸遜は、自軍の反対を押し切り、夷陵にて計略の秋を待つ。一方、自らの生きるべき道を模索し、蜀を離れゆく馬超。呉の臣従に対し、不信感を募らせる魏帝・曹丕。そして孔明は、呉蜀の決戦の果てに、遺された志を継ぐ。

 その身は朽ち果てようと、志は死なず。滅びの秋、男の眼は何を見るのか。夜が軋み、心の中の鬼火が燃える。君よ、黙して逝くなかれ。北方三国志、衝撃の第11巻。

 殆どの家臣が止めたのに私怨に駆られ、呉に復讐しようとして案の定大敗した夷陵の戦い。北方イズムに照らすと、「劉備の我が儘は解っている」→「然れど国家より志、其れが劉備らしさ」→「故に敢えて行かせよう」となるのでした。王安や陳礼などのオリジナルキャラは、史上には名も無く死んだ人物に人格を与えているのだと思います。例えば、趙雲が阿斗を助ける際には沢山の犠牲があった筈だとか、此から開戦という時期に張飛大将軍に死なれた後釜の将軍の立場は?とか。其れでも、馬良や関興が勿体ない。

 孫呉に目を転じますと、陸遜のじっと耐え忍ぶ姿が天晴れ。気配りの老将・韓当の描写も爽やか。夷陵大敗の後、今迄陸遜に文句ばかり言っていた輩に対し、読者に代わって趙雲が鉄槌を下して呉れます。

 一方、▲が下手だとばれて仕舞った曹丕、暗躍する司馬懿の冷酷コンビも、魏の国家体制を着々と固めてきております。父上は偉大な民政家である前に天下一品の軍人であり、結果は大勝か大敗かのどちらかであったに対し、息子は大敗をしないという姿勢を取ろうとしているんでしょう。棋風で言えば「大山康晴の負けない守りの将棋」ですが、本当は彼も勝ちたいんだな。でも勝てないというのが、屹度夭逝の原因になっていくと睨んでいます。

 話を戻します。三国志には、2人主人公が居ると思います。一方の主人公・曹操が死んだ後、到頭皇叔も退場することになりました。然も、美周郎よりも引っ張って引っ張って、孔明との最期では泣きそうになった程盛り上げて去っていきます。「鬼宿」ってのは、夷陵で見せた執心、また、劉備の体に巣喰う病魔のダブルミーニングだと思っています。馬超も颯爽と舞台を去って、五虎将軍も趙雲独りか。正直、小物ばかりの天下三分は魅力が薄れてきます。

三国志〈11の巻〉鬼宿の星 (ハルキ文庫―時代小説文庫)三国志〈11の巻〉鬼宿の星 (ハルキ文庫―時代小説文庫)
著者:北方 謙三
角川春樹事務所(2002-04)
おすすめ度:5.0
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kintetsurecords at 22:22│Comments(0)TrackBack(0)この記事をクリップ!books | history

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