2010年09月01日
『三国志』十三の巻・極北の星 北方謙三
志を継ぐ者の炎は消えず。曹真を大将軍とする三十万の魏軍の進攻に対し、諸葛亮孔明率いる蜀軍は、迎撃の陣を南鄭に構えた。先鋒を退け、緒戦を制した蜀軍だったが、長雨に両軍撤退を余儀なくされる。蜀の存亡を賭け、魏への侵攻に『漢』の旗を掲げる孔明。長安を死守すべく、魏の運命を背負う司馬懿。そして、時代を生き抜いた馬超、爰京は、戦いの果てに何を見るのか。壮大な叙事詩の幕が厳かに降りる。北方「三国志」堂々の完結。
蒼茫の地に星墜ちる。五丈原の空、砕け散る夢のかけら。この天地が、ひとつの死を包みこみ、哭いた。滅びし者たちよ、いまこそ人のこころに甦れ。静寂の中で、厳かに壮大な叙事詩の幕は降りた。北方三国志、ついに完結。
「当代きっての優れた民政家、然し軍師を兼ねなくてはならない処に彼の悲劇がある」というのが、前巻に於ける孟達の諸葛亮評です。魏を倒すことが蜀漢(実際には自ら「蜀」と称したことはない)の存在理由なので、北伐は必須。荊州以前からの劉備軍と益州以降の劉璋軍が同居し纏めていく為(本作には此の描写はない)にも、国が疲弊しようとも其れを遂行しなければならない丞相という立場。優れた民政官だからこそ、民の苦しみも将校の悩みも人一倍感じていたことでしょう。一方、関羽・張飛・劉備・趙雲と嘗ての仲間もみんな逝って了った。だから、独りで踏ん張るしかない。でも、魏延だけは好きになれないという人間味が彼の魅力でもあります。
静かに出師の表を読み上げる処から始まる北伐では、諸葛亮と司馬懿の戦闘シーンが秀逸。呂布が指揮するような血湧き肉躍るスピーディーな用兵と、赤壁の周瑜の如き最高峰の頭脳の化かし合いが最終巻に相応しいです。今巻は司馬懿が主人公と言えるかも知れません。孔明に比較すると凡庸に見えて了う彼の怯えを通して、神憑った諸葛亮を浮き立たせる訳です。最後も蜀サイドではなく、▲▲の一族が物語を閉じます。あ、張衛のような人生を送る人って恐らく多く居ると思うので、彼の最期は凄く切なくなったな。巻末エッセイは要らないや。
纏めますと、矢っ張り水滸伝の方が好きですが、三国志も中々面白かったですね。特に、呂布・馬超・諸葛亮など、筆者が贔屓する人物の描写は素晴らしい。滅びの物語・三国志、北方男節が炸裂でした。
三国志〈13の巻〉極北の星 (ハルキ文庫―時代小説文庫)著者:北方 謙三
角川春樹事務所(2002-06)
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